成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。 判断能力が不十分になった高齢者は、訪問販売などの巧みなセールストークに根負けして不本意にも契約をしてしまったり、場合によっては悪徳業者にだまされたりすることがあります。また、介護が必要になったり入院したりする場合、ご本人一人では種々の契約ができないこともあるでしょう。 こんなとき、その人のために、契約の取消ができたり(同意権・取消権)、その人に代わって入院契約等をしたり(代理権)する人が必要になります。 このように、既に判断能力が十分でなくなっている場合には、法律によって援助者を定めてご本人を支援する制度があり、この仕組みを法定後見制度といいます。法定後見制度では、ご本人の判断能力に応じて3種類の支援の類型があります。 それに対して任意後見制度は、ご本人の判断能力が十分なときに、将来、後見人になる人と支援を必要とすることがらをあらかじめ契約(公正証書)で決めておき、判断能力が不十分になってきたら、その契約を発効させ、支援してもらうものです。 判断能力に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つの類型があり、
それぞれ補助人、保佐人、後見人を選んでもらい、その人たちが 本人を支援します。 補助 判断能力が不十分 保佐 判断能力が著しく不十分 後見 判断能力が全くない(欠く常況) 将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ契約に より、次のことを決めることができます。 @ 「誰に」(任意後見人) A 「どんなことを支援してもらうか」(代理権の範囲) 法定後見制度利用の要件である判断能力の程度については、医師の診断書や鑑定書をもとに最終的には家庭裁判所が判断します。判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの支援方法がありますが、補助の開始については本人の同意がなければできません。 それぞれの判断能力の目安は、おおよそ次のようになり(参考)、支援内容もその判断能力に応じて異なります。 ■ 支援の種類と判断能力の目安
■ 支援の種類と支援内容
■ 同意権/取消権と代理権について 同意権/取消権(補助人と保佐人) 【補助人】 補助人は民法第13条1項の行為の一部について、同意権を持ちます。ただし、同意権を補助人に付与するには申立て時に本人の同意が必要です。 補助人が同意権を持った行為については、補助人の同意なしに行われた契約が本人に不利益だった場合、補助人と本人はこの契約を取り消す(取消権)ことができます。 【保佐人】 保佐人は民法第13条1項の行為のすべてについて同意権を持ちます。したがって、保佐人の同意なしに行われた民法第13条1項の契約行為について、それが本人に不利益な契約だった場合、保佐人と本人はそれを取り消すことができます。 代理権(補助人と保佐人) 補助人/保佐人の代理権は、申立て時に本人の同意が必要です。したがって、補助人/保佐人が代理権を持っている行為について、本人が1人で契約等を行っても、契約は無効です。 代理権(後見人) 日常生活に関する行為以外の財産に関わる法律行為は、後見人の判断ですべて行われます。
本人がする契約などの行為に補助人/保佐人が同意することにより、法律的に効果が認められることになり、同意を得ないでした契約は取り消すことができます。 本人に代わって契約などの行為を成年後見人等がする権限をいいます。成年後見人等がした行為は、本人がした行為として扱われます 後見制度を利用することで、選挙権を失ったり特定の職業に就けなくなる場合があります。制限されること(具体例)については次のとおりです。
成年後見人等に選任される人の7割くらいは、ご本人のご親族です。家庭裁判所への申立て時に成年後見人等の候補者がいる場合は記載します。家庭裁判所は様々な事情を審査した後、成年後見人等を選任します。したがって、候補者以外の第三者(司法書士、弁護士、社会福祉士など)が選任される場合もあります。また、親族等が成年後見人等になった場合に、家庭裁判所は成年後見人等の事務を監督する成年後見監督人等を職権で選任することもあります。 ご家族以外の第三者が選任されるケースでは次のようなことが考えられます。
成年後見人に選任された人は、本人の心身の状態や生活状況に配慮(身上配慮義務)しながら、財産管理や介護契約、施設入所契約、入院契約等の必要な代理行為(身上監護)を行うことになります。そして、その遂行状況を定期的に家庭裁判所に報告する義務が生じます。 ■ 後見人の職務
また、次のような人は成年後見人等にはなれません。
司法書士、弁護士、社会福祉士などが成年後見人等や成年後見監督人等に選任された場合は、本人の財産から報酬が支払われます。その報酬は、成年後見人等が家庭裁判所に「報酬付与の審判」を申立てることにより、家庭裁判所が報酬額を決定します。 審判確定と登記 後見等開始申立てがされると、家庭裁判所は様々な事情を考慮して審査します。その結果、後見等開始の審判をし、成年後見人等を選任します。審判がされると成年後見人等に家庭裁判所から審判書が送達されます。審判書が成年後見人等に届いてから2週間以内に、審判に対する不服申立てがされない場合に、審判の法的効力が確定します。 審判が確定すると、家庭裁判所は東京法務局に審判内容を登記してもらうよう依頼します。登記がされると家庭裁判所から成年後見人等に登記番号が通知されます。その登記番号により登記事項証明書を取得します。この登記事項証明書は成年後見人等の職務を行うときの証明書になります(必要に応じて、提示や提出を求められます)。 法定後見制度を利用するには、医師の診断書をもとに、本人の判断能力の程度により、「補助」「保佐」「後見」のいずれかを選択し、家庭裁判所へ申立ての手続きを行います。
成年後見制度を利用するためには申立てができる人や家庭裁判所の場所が決まっています。 ■ 申立てができる人 → 本人、配偶者、4親等内の親族等、市町村長他 ■ 申立てする家庭裁判所 → 本人(被後見人)の住所地の家庭裁判所 申立てに必要な書類と費用はおよそ以下のとおりですが、事案によって多少異なりますので詳しくは管轄の家庭裁判所にお聞きください。 ■ 必要書類 【裁判所のHPより】
法務省、裁判所
┣ 後見開始の審判(裁判所) → 「後見開始」┣ 保佐開始の審判(裁判所) → 「保佐開始」 ┣ 補助開始の審判(裁判所) → 「補助開始」 ┣ 登記されていなことの証明書の取得について(法務省) → 「登記されていないことの証明申請」 ┗ 各家庭裁判所へのリンク → 「各家庭裁判所」 ■ 費用
今現在は判断能力に問題はなく、将来、判断能力が十分でなくなった時、自分を援助してくれる人(任意後見人)とあらかじめ契約をしておき、将来に備えておくものです。 加齢にともない、判断能力が十分でなくなった時、今までのように自宅で生活をしたい、望んでいた施設に入りたい、病気になっても困らないようにしておきたい・・・など、自分の希望がかなえられるかどうかは判りません。そういった場合には、援助してくれる任意後見人を決めておけば安心です。 また、法定後見制度と異なり、後見人は契約で決まっているので、後見を開始したいときは、家庭裁判所に任意後見人を監督する「任意後見監督人」の選任を申し立てます。そして、任意後見監督人が任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的な報告をすることにより、問題が発生することを防ぐ仕組みになっています。 任意後見制度は、@将来、後見してくれる人とまず任意後見契約を結び、判断能力が衰えてきたら、A家庭裁判所へ任意後見監督人の選任の申立てを行うという2段階の手続を行うことになります。判断能力の状態によっては、この2つを同時に行うことも可能です。
「判断能力が衰えてきたら」について 判断能力の衰えを感じてご本人が任意後見監督人の選任の申立てをしたり、まわりの人がご本人の判断能力の衰えに気づき、任意後見監督人の選任申立てにつなげてくれればよいですが、独居等の場合、身の回りにご本人の判断能力の衰えに気づく人がいない場合は、任意後見受任者と「見守り契約」や「財産管理等委任契約」を締結して備えることができます。定期的な面談等により心身の状態を見極め、ご本人の望んでいる生活ができるように代理行為をします。
任意後見監督人選任の申立てに必要な書類と費用は次のとおりです。 ■ 必要書類 【裁判所のHPより】
法務省、裁判所
┣ 任意後見監督人選任の審判(裁判所) → 「任意後見監督人選任」┗ 登記事項証明書(※1)の取得について(法務省) → 「登記事項証明申請書(PDF)」 ■ 費用
本人の意思を尊重し、その心身の状態や生活の状況に配慮し(身上配慮義務)、本人の生活や療養看護、財産管理に関する法律行為を代理して行います。 任意後見人の職務の具体例として、次のようなものがあります。
上記のように、必要に応じて代理権の範囲を決めておきます。 成年後見人の大事な職務の一つは財産管理で、財産に関する法律行為については包括的な代理権が与えられています。ただし、本人の意思を尊重する趣旨から、本人の居住用不動産(建物と敷地)の処分(売却等)については、家庭裁判所の許可が必要になります(民859の3)。 ■ 居住の用に供する建物とその敷地とは、どのようなものか? 現在居住している場合はもとより、居住する予定がある建物とその敷地を含みます。現在は老人ホームに入所していても、入所前に住んでいた自宅は「居住用不動産」に該当します。 ■ 「処分」とは具体的にどのような行為か? 売却のみならず、賃貸、賃貸借の解除、抵当権等の設定などがあります。 たとえば、借家に住んでいたがその後老人ホームに入所する場合に、借家契約を解約するときには、家庭裁判所の許可が必要になります。 ■ 家庭裁判所の許可を得ずに不動産を売却した場合は、どうなるか? 許可を受けずに売却した場合は、その売買行為は無効になります。 ■ 家庭裁判所の「居住用不動産の処分許可」の申立てはどのようにするのか? 申立てについては、裁判所のサイトをご覧下さい。 申立てに際しては、売買の相手方(買主)と売買金額が確定してから申立てる必要があり、仮契約書や契約書案の提出を求められます。通常は約1ヶ月程度で許可がおります。 ■ 保佐や補助の場合も「居住用不動産の処分許可」が必要か? 保佐の場合は、被保佐人の処分行為は取消しの対象になっているので、居住用不動産の売却等には保佐人の同意が必要です。補助の場合も、居住用不動産の処分が取消権の対象ならば補助人の同意が必要となります。ただし、同意するために家庭裁判所の許可はいりません。 保佐人、補助人に付与された代理権の中に居住用不動産の処分がある場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。 裁判所
┣ 居住用不動産の処分許可申立てについて → 「居住用不動産処分許可の申立書」 |