複数の相続人がいる場合、各共同相続人はその法定相続分や指定相続分(遺言による)に応じて被相続人の権利義務を承継し、相続財産は共同相続人の共有となります。そこで、共有状態を解消してそれぞれの財産の帰属先を決めたり、相続人間で自由な共有割合を確定させたりする手続を遺産分割といいます。 遺産をどう分割するかは、相続人全員で協議をして決めます。また、遺言があっても、それにしたがい遺産分割するためには分割の協議が必要になることがあります。また、遺言書の記載によっては、遺言書のみで登記手続ができない場合もあり、そのようなときには遺言書の記載を補完するために分割協議書を作成することが必要になります。したがって、遺産分割協議は遺言がないときの共同相続ばかりでなく、遺言がある場合でも適宜、必要になることがあります。 遺産の分割は、相続人全員で協議し決定しますが、協議が整わないときは調停や審判によることができます。
相続分の譲受人とは 相続分とは、自分が相続により取得する積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を指します。したがって、相続人は相続開始後に、自己の相続分を譲渡することができ、その相手は相続人に限らず第三者に対しても可能です。遺産分割前に第三者に譲渡した場合、遺産分割協議はその相続分の譲受人である第三者を交えて行うことになります。 そのような場合、遺産分割協議が円滑に行われない可能性もあるので、譲渡した相続人以外の共同相続人は、相続分の代価とその費用を支払って、相続分を取り戻すことができます。一ヶ月以内なら譲受人の意思に関わらず取り戻すことができます(民905)。 ■ 遺産分割協議が無効となる場合
■ 遺産分割協議をやり直した場合 相続人が全員一致して、いったん成立した遺産分割協議を合意解除してやり直すことは可能です(最判平2.9.27 民集44-6-995)。 ただし、税法上は、相続人の全員の合意があっても遺産分割のやり直しは認めていません。いったんはそれぞれの相続人に帰属した財産を、贈与や交換などの名目で譲渡したとみなされ、贈与税やその他の課税関係が生じますので注意が必要です。 相続人による遺産分割協議が整わなかった場合に、家庭裁判所に調停または審判を申し立てて、遺産分割の請求をすることができます。 ■ 調停 調停は家事審判官(裁判官)と2人以上の調停委員で構成され(調停委員会)、相続人は調停委員を交えて、家庭裁判所で遺産分割について協議を行います。この話し合いの中で、相続人間で遺産分割の合意ができれば調停は成立し、合意内容が調書として作成され(調停調書)、確定した審判と同一の効力を持ちます。調停で合意ができなかった場合は、自動的に審判手続に移行します。 「遺産分割の対象」となるもの 調停において、遺産分割の対象となるものは、相続開始時に存在して、かつ、分割時にも存在する未分割の財産です。したがって、相続開始前に引き出された預金や相続開始後に処分された財産は対象にはなりません。遺言がある場合ですが、遺言が有効で、その遺言が遺産の一部につき処分を決めているなら、処分が決まっている遺産については対象となりません。遺言で遺産全ての処分が決まっていれば、遺産分割調停の申立はできません。遺産分割調停の申立については、下段の裁判所のサイトをご覧ください。 ■ 審判 審判とは、家庭裁判所の家事審判官が相続人との話し合いを通さずに、職権によりさまざまな調査(相続財産、各相続人の生活や経済状態)をした上で遺産分割の内容を決定します。調停を経ずに最初から審判を申し立てることもできますが、まず相続人間の合意を目指すことが家事事件は適しているので、特別な事情がない限り家事調停に付することになっています(家庭裁判所の職権で調停に付すことができます)。審判に不服がある場合は、審判書を受け取ってから2週間以内に不服(「即時抗告」といいます)の申立をすることにより、高等裁判所に審理をしてもらうことができます。不服がなければ、審判は確定判決と同一の効力を持ちます。 裁判所
┣ 遺産分割調停申立の詳細について → 「遺産分割調停の申立書」平成30年の法改正において、預貯金が遺産分割の対象となる場合に、遺産分割が終わる前でも、各相続人が一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。以前は、遺産分割の手続が終了するまで、被相続人名義の預貯金口座が凍結されてしまうことがあり、相続債務の弁済や葬儀費用の支払いが行えないなど、相続人に不都合が生じていました。この改正は2019年7月1日に施行されましたが、それ以前に開始した相続にも適用されます。 払戻しには次の2つがあります。
上記1の手続きに必要な書類(全国銀行協会のパンフレットによる。各金融機関に問合せ要)
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