4.遺産分割


複数の相続人がいる場合、各共同相続人はその法定相続分や指定相続分(遺言による)に応じて被相続人の権利義務を承継し、相続財産は共同相続人の共有となります。そこで、共有状態を解消してそれぞれの財産の帰属先を決めたり、相続人間で自由な共有割合を確定させたりする手続を遺産分割といいます。

遺産をどう分割するかは、相続人全員で協議をして決めます。また、遺言があっても、それにしたがい遺産分割するためには分割の協議が必要になることがあります。また、遺言書の記載によっては、遺言書のみで登記手続ができない場合もあり、そのようなときには遺言書の記載を補完するために分割協議書を作成することが必要になります。したがって、遺産分割協議は遺言がないときの共同相続ばかりでなく、遺言がある場合でも適宜、必要になることがあります。

遺産の分割は、相続人全員で協議し決定しますが、協議が整わないときは調停や審判によることができます。

 
協議による分割
■ 時期 相続開始後いつでもできます。期限についての制限はありません。ただし、遺言で、相続開始から最長5年間まで遺産分割を禁止することができ、その間は遺産分割ができません。
■ 当事者
  • 相続人全員
  • 包括受遺者
  • 胎児(実際は出生後に分割協議をします)
  • 相続分の譲受人(相続人からその相続分を譲渡された人)
  • 不在者の財産管理人(行方不明者がいる場合)
  • 相続人の法定代理人(親権者、成年後見人等)
  • 特別代理人(相続人に未成年者、成年被後見人がいた場合で、他の相続人との間で利益が相反するとき ※具体例はこちら Q&Aの10、11をご覧ください)
  • 遺言執行者(包括遺贈の場合)
■ 遺産分割
  協議書
口頭による協議だけでも有効ですが、相続財産に不動産が含まれる場合は、登記手続に際し、遺産分割協議書(印鑑証明書付)の提出を求められますので、遺産分割協議書を書面で作成します。また、相続税の申告にも提出を求められます。
■ 相続財産
  の評価時
評価時については、相続開始時と遺産分割時が考えられます。相続開始後、すぐに分割協議が行われるとは限らず、協議がまとまらない場合は時間も掛かってしまいます。そこで、遺産分割時を評価時とするのが一般的です。相続人全員で評価の基準時や評価方法、評価額について合意すれば、それにより行います。
■ 遺産分割
  の方法
相続人間で合意すればどのような分割方法も可能です。分割の方法には次のようなものがあります。
  1. 現物分割
    現物を分割して取得する方法です。たとえば、土地の場合なら、土地を分筆して分けるような方法です。
  2. 代償分割
    相続人の1人または複数人に現物を取得させ、現物を取得した人が他の相続人に対して、お金を支払う等の債務を負担する方法です。たとえば、相続財産が自宅のみで配偶者が居住している場合、配偶者にその自宅を取得させる代わりに、他の相続人に具体的相続分に応じた代償金を支払う方法です。この場合、代償金を支払う資力が必要になります。
  3. 換価分割
    遺産を売却して、その売却代金を配分します。

相続分の譲受人とは
相続分とは、自分が相続により取得する積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を指します。したがって、相続人は相続開始後に、自己の相続分を譲渡することができ、その相手は相続人に限らず第三者に対しても可能です。遺産分割前に第三者に譲渡した場合、遺産分割協議はその相続分の譲受人である第三者を交えて行うことになります。
そのような場合、遺産分割協議が円滑に行われない可能性もあるので、譲渡した相続人以外の共同相続人は、相続分の代価とその費用を支払って、相続分を取り戻すことができます。一ヶ月以内なら譲受人の意思に関わらず取り戻すことができます(民905)。

■ 遺産分割協議が無効となる場合
  • 相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効ですので、やり直さなければなりません。ただし、相続開始後に認知により相続人になった人がいて、遺産分割を請求しようとする場合、すでに他の共同相続人により遺産分割が終わっていたときは価額の支払請求ができるだけです。
  • 当事者の意思表示に瑕疵があった場合、無効や取消ができることがあります

■ 遺産分割協議をやり直した場合
相続人が全員一致して、いったん成立した遺産分割協議を合意解除してやり直すことは可能です(最判平2.9.27 民集44-6-995)。
ただし、税法上は、相続人の全員の合意があっても遺産分割のやり直しは認めていません。いったんはそれぞれの相続人に帰属した財産を、贈与や交換などの名目で譲渡したとみなされ、贈与税やその他の課税関係が生じますので注意が必要です。



  

協議が整わない場合
 


相続人による遺産分割協議が整わなかった場合に、家庭裁判所に調停または審判を申し立てて、遺産分割の請求をすることができます。


■ 調停
調停は家事審判官(裁判官)と2人以上の調停委員で構成され(調停委員会)、相続人は調停委員を交えて、家庭裁判所で遺産分割について協議を行います。この話し合いの中で、相続人間で遺産分割の合意ができれば調停は成立し、合意内容が調書として作成され(調停調書)、確定した審判と同一の効力を持ちます。調停で合意ができなかった場合は、自動的に審判手続に移行します。

「遺産分割の対象」となるもの
調停において、遺産分割の対象となるものは、相続開始時に存在して、かつ、分割時にも存在する未分割の財産です。したがって、相続開始前に引き出された預金や相続開始後に処分された財産は対象にはなりません。遺言がある場合ですが、遺言が有効で、その遺言が遺産の一部につき処分を決めているなら、処分が決まっている遺産については対象となりません。遺言で遺産全ての処分が決まっていれば、遺産分割調停の申立はできません。遺産分割調停の申立については、下段の裁判所のサイトをご覧ください。


■ 審判
審判とは、家庭裁判所の家事審判官が相続人との話し合いを通さずに、職権によりさまざまな調査(相続財産、各相続人の生活や経済状態)をした上で遺産分割の内容を決定します。調停を経ずに最初から審判を申し立てることもできますが、まず相続人間の合意を目指すことが家事事件は適しているので、特別な事情がない限り家事調停に付することになっています(家庭裁判所の職権で調停に付すことができます)。審判に不服がある場合は、審判書を受け取ってから2週間以内に不服(「即時抗告」といいます)の申立をすることにより、高等裁判所に審理をしてもらうことができます。不服がなければ、審判は確定判決と同一の効力を持ちます。

┣ 遺産分割調停申立の詳細について → 「遺産分割調停の申立書」



  

預貯金の払戻し制度
 


平成30年の法改正において、預貯金が遺産分割の対象となる場合に、遺産分割が終わる前でも、各相続人が一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。以前は、遺産分割の手続が終了するまで、被相続人名義の預貯金口座が凍結されてしまうことがあり、相続債務の弁済や葬儀費用の支払いが行えないなど、相続人に不都合が生じていました。この改正は2019年7月1日に施行されましたが、それ以前に開始した相続にも適用されます。

払戻しには次の2つがあります。
 
1. 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しが受けられる制度(民法)
小口の資金需要に簡易迅速に対応することを主眼に、家庭裁判所の手続きを不要にする代わりに金額に上限を設け、相続人それぞれが単独で払戻しが可能。
 
■相続人各人が払戻しができる額=相続開始時の預貯金債権の額 × 3分の1 × 各人の法定相続分
 
※上記は口座ごとに計算し(定期預金は明細ごと)、1つの金融機関の上限を150万円とする
2.保全処分の要件緩和(家事事件手続法)
金額を限定することなく必要な額だけ払戻しを行いたいケースで、遺産分割の調停または審判の申立てがあり、事情により申立人または相手方が払戻しの権利行使をする必要性が認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で払戻しが認められる。
 
 
上記1の手続きに必要な書類(全国銀行協会のパンフレットによる。各金融機関に問合せ要)
■ 必要書類
  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 払戻しを希望する人の印鑑証明書
 



 
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