5.相続放棄と限定承認


相続人は相続財産を引継ぎますが、相続する財産の全てがプラスの財産であるとは限りません。借金のようなマイナスの財産も相続します。

そこで、相続人には3つの選択肢があります。

 

単純承認
原則どおり、相続財産をすべて承継するという「単純承認」です。現実には、特に意思表示をしなくても単純承認となります。ただし、相続人が財産を処分したり、後述する限定承認/相続放棄を期間内にしなかったりすれば単純承認がなされたものとみなされます。

限定承認
負債がどのくらいあるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続で得たプラスの財産の限度で被相続人の負債を受け継ぐことを「限定承認」といいます。あまりがあればもらい、マイナスの財産が残った場合はそのマイナス財産は引き継ぎません。ただし、相続財産を勝手に使ったりすると相続放棄や限定承認ができなくなりますので、注意が必要です。

相続放棄
はじめから相続人ではなかったことにすることです。
たとえば、相続人が3人いた場合、相続放棄をした人が1人いたら、相続人は2人となり、相続財産の全てを2人で分けることになります。また、相続財産の中で明らかに負債のほうが多いときには、相続放棄を選択すれば負債を負うことはありません。
同順位の相続人全員が相続放棄をした場合、次順位の人たちが相続人になります。

相続放棄をする場合は、被相続人が死亡後、相続人が相続の開始を知った時から3ヶ月以内(熟慮期間)に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に相続放棄の申述をします。また、家庭裁判所に申し立てれば、限定承認や相続放棄の期間を伸長することもできます。伸長できる期間は通例3ヶ月です。ただし、一度した相続放棄は、その熟慮期間内でも撤回(取消し)することはできません(民919@)。 詐欺や強迫により相続放棄したときや被保佐人が保佐人の同意を得ずに相続放棄をしたときなどは、取り消すことができます(民919A)。

相続放棄の申述手続は次のとおりです

■申述人 相続人(未成年者あるいは成年被後見人の場合は、その法定代理人)
※未成年者や成年被後見人とその法定代理人(親や成年後見人)がともに相続人であるとき、互いの利益が相反するため、相続放棄の申述を行う場合には未成年者や成年被後見人に特別代理人を選任し、特別代理人が申述を行う必要があります。ただし、未成年者や成年被後見人とその法定代理人が共に相続放棄をする場合は必要ありません。
■申述期間 自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内です。この期間は、家庭裁判所に申立てをして期間を伸長することができます。
■申述先 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
■費用
  • 申述人1人につき収入印紙800円
  • 連絡用の郵便切手(申述先の家庭裁判所へ確認してください)
■必要な書類
  • 相続放棄の申述書1通
  • 申述人の戸籍謄本1通
  • 相続人を確定させるための被相続人の出生に遡る戸籍の全てと被相続人の住民票除票
※収集する戸籍についての注意
相続人が第一順位の相続人である場合は、「被相続人の出生に遡る戸籍の全て」ですが、相続人が第二順位(直系尊属)や第三順位(兄弟姉妹)の場合は、上記以外の戸籍が必要になりますのでご相談下さい。また、戸籍謄本については発行後3ヶ月以内のものを提出します。
■提出方法 家庭裁判所に持参または郵送

┣ 相続放棄申述の詳細について → 「相続放棄の申述」

相続放棄と「相続分を放棄すること」
上述のとおり、相続放棄は「相続人でなかったことにする」ことですが、よく「相続分を放棄する」という言葉を耳にします。その意味は、相続人として本来持っている法定相続分を放棄するという場合と「財産は何ももらわなくてもいい」という場合があるようです。相続放棄は、相続人にならないことですから、相続する割合や相続財産を取得しないということとは違います。
たとえば、実家が農家で長男が農業を継いでいる場合などでは、「農業を続けるために長男以外の相続人は土地(農地)の相続を放棄して欲しい」ということがあります。このような場合は、遺産分割協議で長男以外の相続人は農地を取得しない意思表示をすれば可能です。また、他の相続人が長男に相続分を譲渡することにより、長男に農地を取得させることができます。



 
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