2.相続人


相続において誰が相続人(法定相続人とも呼ばれます)になるかは最も重要なことです。民法において、被相続人と一定の身分関係にある者(血縁関係者と配偶者)を相続人とし、その範囲と順位を定めています。相続人は、被相続人が死亡した時点で生存していなければなりません。

 

相続人と相続順位
 


相続人の範囲とその順位は次のように定められています。

配偶者 常に相続人となります。 ※配偶者とは婚姻の相手方のことです

第一順位 ■ 被相続人の子、代襲相続人(孫や曾孫など)
  • 胎児は既に生まれたものとみなされます。
  • 子は、実子と養子の区別はありません。
  • 認知された非嫡出子も相続人となります。

ただ、実子でも他の人の特別養子になった人は相続人になりません。特別養子は実親との親子関係を断つ縁組だからです。
第二順位 ■ 被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)
直系尊属とは被相続人の父母や祖父母です。配偶者の父母等は含まれません。
また、直系尊属の中では、親等の近いものが優先します。つまり、父母が死亡していても、祖父母が生きていれば、祖父母が相続人になります。
第三順位 ■ 被相続人の兄弟姉妹
被相続人の兄弟姉妹に代襲相続となる原因がある場合、その子どもに限って、代襲相続が認められています。つまり、甥姪が相続人になります。
※後順位の相続人は、前順位の相続人がいる限り、相続人にはなれません。

代襲相続
第一順位である子に次の理由がある場合に、孫や曾孫などの直系卑属がいれば、子に代わって相続人(代襲相続人)になります。
@ 相続開始以前に死亡したとき
A 相続欠格によって相続権を失ったとき
B 廃除によって相続権を失ったとき

  • 子が相続放棄をした場合には代襲相続は発生しません。
  • 第一順位の代襲相続は、孫、曾孫・・・と直系卑属がいる限り続きます。
  • 第三順位の兄弟姉妹においても、その兄弟姉妹に上記理由がある時、兄弟姉妹に代わって甥、姪が相続人になりますが、代襲相続は甥/姪までです。

■相続人のケース図


第一順位が相続人になる場合


第二順位が相続人になる場合



第三順位が相続人になる場合



二重資格
相続人が、相続人として二重に資格を持つ場合は、二重の権利を有します。二重に資格を持つ場合とは、たとえば、被相続人が孫を養子にして、実子(孫の親)が死亡している場合です。実子が死亡しているため、孫は親の代襲相続人であると同時に養子として相続人になります。

同時死亡の推定
相続は、人の死亡により開始し、相続人は被相続人(死亡した人)が死亡した時点で、生存している人しかなれません。したがって、飛行機事故で親子同時に死亡状態であったような場合、どちらが先に死亡したか わかりません。このように死亡の前後が明らかでない場合は、同時に死亡したものと推定され、この親子間では相続が開始しないことになります。 親が現場で、子が病院に搬送されてから死亡したというように、死亡の前後が明らかな場合は、あとに死亡した子は親の相続をした後に、死亡したことになります。

同時死亡の推定と代襲相続
同時に死亡した者の間では相続は開始しませんが、死亡した者に直系卑属がいる場合は、代襲相続が発生します。代襲相続の要件である「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき」の"以前"という語句は、「同時に死亡した場合も含む」と解釈されています。

相続人とは
相続人とは、上記のとおり民法に定められて、法定相続人とも呼ばれています。相続人以外の人が遺言によって財産を譲り受ける場合は受遺者と言います。



 

相続分
 


相続分とは、各相続人が遺産全体に対して相続できる割合をいい、次の2つがあります。

指定相続分 被相続人は、遺言で「相続分を決めたり、それを第三者に依頼する」ことができます。このように被相続人の意思により決められた相続分のことをいいます。
法定相続分 民法で定められた共同相続人の相続分で、下表のとおりです。

■ 法定相続分(相続人の組み合わせにより、相続人各人の相続分が決められています)
相続人の組み合わせ 相続人 法定相続分
配偶者と第一順位の場合 → 配偶者 1/2
1/2
配偶者と第二順位の場合 → 配偶者 2/3
直系尊属 1/3
配偶者と第三順位の場合 → 配偶者 3/4
兄弟姉妹 1/4

※ 配偶者以外の相続人が複数いる場合
たとえば、配偶者と子が3人いる場合は、子の法定相続分である1/2を3人で等分したものがそれぞれの子の相続分になります。

※ 配偶者がいない(死亡、離婚他)場合
相続財産のすべてを相続人で等分したものがそれぞれの相続分になります。

相続分の例外(非嫡出子)について
非嫡出子の相続分は嫡出子の半分でしたが、平成25年12月5日,民法の一部を改正する法律が成立し,嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になりました(同月11日公布・施行)。平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとしています。



 

相続欠格と廃除
 


相続人でありながら、相続人としての資格を失う場合があります。相続欠格者と廃除者です。また、自らの意思で相続人の資格を放棄した人は、当然ながら相続人にはなりません。
相続放棄については、「相続放棄と限定承認」の項をご覧ください。

■ 相続欠格
被相続人の財産を相続させることが正義に反するような行為を、推定相続人(被相続人が死亡すれば、相続人になる人)が行った場合に、当然に相続資格を失います。

相続欠格に該当する行為は民法で次のように定められています。

■ 相続欠格事由
  1. 故意に被相続人又は相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは、この限りではない。
  3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
※ 3から5までは遺言に関するもので、著しく不当な干渉行為によるものです。  

■ 廃除
被相続人が相続させたくないと思うような非行が遺留分を有する推定相続人にあった場合、被相続人は家庭裁判所に申し立てて、その推定相続人の相続資格を奪うことができます。また、廃除は遺言によってもすることができます。なお、遺留分については、遺言・遺留分の項をご覧ください。

■ 廃除の要件
  1. 被相続人に対して虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えたとき
  2. 推定相続人にその他の著しい非行があったとき
ただし、廃除の対象となるのは、被相続人との人間関係や信頼関係を破壊するような行為で、被相続人の主観的な感情に左右されるものではありません。なお、被相続人はいつでも廃除の取消を家庭裁判所に請求できますし、遺言によっても取り消すことができます。



 

相続人が不明の場合
 


相続人が不明な場合とは、次の場合が考えられます。

@ 生きていることは間違いないが、住所不定で連絡がつかない場合
A 生死そのものが不明である場合



@ 生きていることは間違いないが、住所不定で連絡がつかない場合
音信不通等で連絡が取れない場合、民法上、その相続人は「不在者」として扱われます。そして、不在者である相続人に代わって家庭裁判所は財産管理人を選任します。その選任の手続の流れは次のようになります。

■ 不在者のための財産管理人選任の手続の流れ
  1. 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者等)または検察官が、不在者の従来の住所地にある家庭裁判所に財産管理人の選任を請求する。
  2. 家庭裁判所は、不在の事実、不在者の財産の管理状況、財産管理人候補者の適格性などについて調査した後、財産管理人を選任する。

■ 不在者の財産管理人の職務
財産管理人の職務は、 不在者のために「財産の管理・保存」をすることです。したがって、財産管理人が遺産分割協議に参加する場合、家庭裁判所に 「権限外行為許可」の申立を行い、許可を得ておく必要があります。財産管理人がこの許可を申立てる際には不在者の法定相続分以上を確保した遺産分割協議書案を添付する必要があります。

┣ 不在者財産管理人の選任申立手続について → 「不在者財産管理人選任」
┗ 権限外行為許可の申立手続について → 「不在者の財産管理人の権限外行為許可の申立書」


A 生死そのものが不明である場合
生死そのものが不明な場合、利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、財産管理人等)は不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に「失踪宣告」の申立をして、法律上死亡したとみなしてもらう手続をとることになり、その手続の流れは次のようになります。

■ 失踪宣告申立の手続
  1. 利害関係人は不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に「失踪宣告」(法律上死亡したとみなしてもらう手続)の申立をする。
  2. 家庭裁判所は、親族等に対し、家庭裁判所調査官による調査を行い、その後、一定期間内に不在者は生存の届出をするように、不在者の生存を知っている人はその届出をするように、官報や裁判所の掲示板で催告(公示催告といいます)をする。
  3. その期間内に届出などがなかったときに失踪の宣告がされる。
  4. 家庭裁判所は、失踪宣告の審判を申立人に告知し、申立人は審判確定の日から10日以内に戸籍法に従い、失踪届を出す。

失踪宣告の要件と効果(死亡日)は、次のとおりです。
普通失踪 要件 → 不在者の生死が7年以上明らかでないとき
効果 → 失踪期間(7年)満了時
特別失踪 要件 → 戦争や遭難などで行方不明となり、生死が1年以上不明なとき
効果 → 危難が去ったときに死亡したとみなされる
ただし、特別失踪にあたる要件の中でも、台風や水難のような事変によって死亡が推定される場合は、官公署が死亡を認定するという制度があります。これを認定死亡といって、戸籍にその旨記載されれば、死亡したと推定されて失踪宣告の手続を要しません。

┗ 失踪宣告の申立手続について → 「失踪宣告」

失踪宣告の申立は上記要件を満たすことが必要なので、生死不明と言っても、失踪宣告の要件を満たさない場合、「不在者」として相続を進めることになります。



 

相続人の不存在
 


相続人の不存在とは、次のどちらかです。

@ 戸籍上の相続人がいない場合
A 相続放棄をして、相続人が存在しなくなった場合


このような場合は、
1.相続財産は法人とされ、
2.家庭裁判所は相続財産の管理人を選任し、
3.相続財産管理人は相続財産に関する事務を執行します。

相続債務などを弁済した後、残余の相続財産は国庫に帰属します。ただし、特別縁故者がいた場合には、特別縁故者に相続財産の全部または一部が与えられます。

特別縁故者
  • 被相続人と生計を同じくしていた者
  • 被相続人の療養看護に努めた者
  • 被相続人と特別の縁故があった者

内縁の妻(夫)、事実上の養子、愛弟子、被相続人の財産形成に多額の出捐をした人や菩提寺、老人ホーム、宗教団体などに分与された例があります。
特別縁故者から相続財産分与の請求があった場合、家庭裁判所がさまざまな事情を考慮し、分与すべき財産を決めます。

┗ 特別縁故者からの相続財産分与の請求 → 「特別縁故者に対する相続財産分与の申立書」



 
Copyright(C) 司法書士 山口悦子 All Rights Reserved.