民法では、相続人が承継するものは、相続開始時に 「被相続人の財産に属した一切の権利義務」と定めています。相続財産には、プラスの財産(不動産、預貯金等、株式などの有価証券など)、マイナスの財産(借金、保証債務等)、その他契約上の地位などもあります。 「被相続人の一身に専属したもの(たとえば国家資格など)」は相続財産にあたらず、祭祀財産(墳墓、祭具等=位牌や仏壇等)や遺骨なども相続財産ではありません。
■ 民法でいう相続財産と相続税法上の「みなし相続財産」について 生命保険金や死亡退職金などは相続税法上「相続または遺贈により取得したものとみなす」として課税の対象とされ、「みなし相続財産」と呼ばれるため、民法でいう相続財産と混乱することがあります。 生命保険金や死亡退職金は、被相続人の死亡により受け取るものですが、生命保険金は生命保険契約により、死亡退職金は雇用契約により、直接、受取人や受給権者に支払われるもので、被相続人が相続開始時に有した財産=相続財産ではありません。 相続財産は、遺言がなければ相続人の共有財産となり、相続放棄をすれば財産を取得することができないばかりか代襲相続もなくなります。しかし、生命保険金や死亡退職金は相続財産ではないので、相続放棄(はじめから相続人でなかったことにする)をしても、受取人や受給権者の固有の権利として受け取ることができます。 ■ 相続財産を修正するものに特別受益と寄与分があります 相続人に対する生前贈与は相続財産の「前渡し」(特別受益)と考えられますし、被相続人が事業を行っていた場合、相続人の一人が事業を助け、相続財産の形成に貢献してきた(寄与)という事情があるとき、それらを考慮して、相続財産を修正します。 このように、相続財産については注意を要することがありますので、以下で整理をしてみます。
被相続人から遺贈や生前贈与を受けた相続人がいた場合、この遺贈や生前贈与のことを「特別受益」といいます。相続財産に特別受益を組入れ(特別受益の持戻し)、これらを考慮して相続分(価額)を決め、相続人間の公平をはかるという考え方です。そこで、生前贈与により得た財産を相続開始時の財産に加えたものを相続財産とみなして、それに法定相続分(割合)や遺言により指定された相続分(割合)をかけた額から、遺贈や生前贈与の額を引いた金額を遺贈や生前贈与を受けた人(特別受益者)の相続分(価額)とするものです。 特別受益は遺贈と生前贈与とに規定されていますが、その他にも特別受益とされる場合があります。
■ 特別受益の持戻し 特別受益があった場合、特別受益分を相続財産に加えることになります。相続財産に生前贈与により取得した財産を加えることを特別受益の持戻しと言います。遺贈は相続開始時に現存するので相続財産に加えません。 持戻しの対象となるのは、次の場合です。
修正された相続財産に、法定相続分または遺言により指定された相続分を掛けて相続分(数額)を算定します(算定された相続分)。その後、生前贈与された額と遺贈額を控除し、残額があれば特別受益者の相続する分となります。ただし、算定された相続分(数額)から生前贈与や遺贈の額を控除した結果、等価またはその額を超えていても、特別受益者は生前贈与や遺贈を返還する必要はありません。 計算の具体例はこちらをご覧ください 遺言により、特別受益の持戻しの免除をすることが可能です。ただし、持戻しを免除する遺言も遺留分を侵害する限度では、無効となります。 相続人の中に被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与(特別な貢献)をした相続人があるときに、その人に相続分以外に相当額の財産を取得させて、相続人間の公平を図る制度です。その特別の寄与に対する相当額を「寄与分」といいます。 被相続人の財産の維持または増加についての「特別の寄与」とは、次のケースです。
この「特別の寄与」といえるには、夫婦間の協力扶助義務、親族間の扶養・互助義務の範囲を超えるような行為で、被相続人の生前にさなれたものに限ります。また、財産の維持や増加に貢献することが要件になりますから、精神的な援助や協力は寄与とはなりません。被相続人から業務の対価(報酬等)を受け取っていれば、それは寄与と認められません。 寄与分を認められた場合の相続財産は下図のように修正されます。 ■ 寄与分の扱い 相続開始の時に有した財産の価額から、共同相続人が協議して決めた「寄与分」を控除したあとの財産を相続財産とみなし、それに法定相続分(割合)や遺言により指定された相続分(割合)をかけた額に寄与分を加えた額を「特別の寄与をした相続人」の相続分とします。ただし、寄与分は、上の図からも判るように、遺産の総額から遺贈の価額を控除した額を超えることはできません(寄与分は遺贈分を侵害することは出来ません)。 寄与分は各相続人が遺産分割協議で主張することになります。協議が整わない時や協議をすることができない時は、家庭裁判所に寄与分を定める処分調停を申立てます。寄与分を定める調停が成立しない時や寄与分を定める審判の申立があれば、家庭裁判所は寄与分について審判します。ただし、寄与分の審判には、遺産分割の審判申立がなされている必要があります。 2019年7月1日以降に開始した相続では、被相続人の親族が特別の寄与(特別な貢献)をした場合に特別寄与者としてその相当額を相続人に請求することが可能になりました。 ■特別の寄与
■特別寄与者の要件
■特別寄与料について
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