配偶者居住権と配偶者短期居住権


遺贈および遺産分割協議の対象として、配偶者居住権が創設されました。これは、被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の自宅建物に相続開始後も無償で居住し続けられる権利です。
 
被相続人が所有する自宅を配偶者に相続させれば、配偶者はそのまま居住できますが、たとえば、遺言で子供に相続させた場合、残された配偶者が住み慣れた家に居住し続けたい気持ちがあっても、子供が自宅を売却したいと強く希望すれば、住み続けられなくなくなってしまう可能性があり、近年、残された老齢の妻が生活に困窮する事例が多く発生するようになりました。これまで遺言は「夫婦2人が亡くなったあとの子供たちへの財産の分与」を念頭に書かれる傾向にありましたが、高齢化社会の進展に伴い、配偶者の生活保障を法的に支える権利の創設が必要になり、法改正が行われることになりました。
 
また、子供たちが独立し、自分が先に亡くなっても、長年暮らした自宅に妻が住み続けることは子供たちにとっても当たり前のことと考え、特に遺言を書かなくても問題はないと考えること自体が時代の流れにそぐわなくなっている感があります。遺言がない場合には法定相続分で相続財産を分けることになり「自分の相続分を現金で欲しい」という子供がいた場合、充分な現金がなく、現金化のための自宅売却により、妻が住むところがなくなり、生活が困窮するようなケースも発生してしまいます。
 
そこで、配偶者居住権という権利が創設され(居住する権利であって、自宅不動産の所有の権利ではありません)、配偶者居住権の遺言による遺贈などにより、配偶者が相続開始時に居住していた自宅建物に無償で住み続けれられることが可能になりました。また、配偶者居住権を取得していない場合でも、一定の期間自宅に住み続けられる配偶者短期居住権という権利も創設されました。
 
 
【配偶者居住権と配偶者短期居住権の概略】
配偶者居住権 【成立条件】
・遺言による遺贈/遺産分割協議による合意・調停・審判
・自宅建物が被相続人の単独所有か被相続人と配偶者との共有であること
・配偶者が相続欠格者または相続廃除者でないこと
【居住権の期間】
・配偶者が亡くなるまで
 ※ただし、遺産分割、遺言の定め、遺産分割の審判で別段の定めをする
  ことができる
【その他】
・登記可能(自宅が売却されても、住み続けることが可能)
・譲渡不可
・自宅の維持に必要な経費は配偶者負担(固定資産税、修繕費など)
・配偶者の死亡で権利消失(一身専属権)
配偶者短期居住権 配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺贈がなかった場合に、相続開始と同時に成立する短期間の居住を可能にする権利。その後の遺産分割協議による合意や調停・審判によって配偶者居住権が成立した場合には、時間的間隔を空けずに配偶者居住権へ移行する。
その期間は相続開始から6か月であるが、遺産の分割による居住建物の帰属が決まるまでは、6か月を超えて帰属決定の日まで配偶者はその権利を有する。
 
 
 
【配偶者居住権と特別受益】
配偶者が配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値に相当する価額を相続したものとして相続分の算定が行われます。これは、本来の所有者が居住建物を使用できないことへの負担を考慮した取扱いです。しかし、同時に「配偶者についてはその居住権を保護しつつ、将来の生活のために一定の財産を確保させる必要がある」と考えての改正ですから、そこに例外が設けられました。
それは配偶者居住権が遺贈された場合で婚姻期間が20年以上ならば特別受益の持戻し免除の意思表示を推定するという規定です。簡単に言うと「財産的価値に相当する価額を相続財産に戻して(特別受益の持戻し)相続分を計算しなくて良い」ということです。
 
特別受益の持戻し免除の
意思表示推定
【条件】婚姻期間20年以上の夫婦間における相続






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